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“エオラ” 第六話 渡り鳥 其の一

あれは何時のことであったろうか。確か三つか四つ位のときで、シトシトと雨が降り注ぐ夜だったと思う。

ベッドでは苦しそうに喘いでいるハセツが寝かされていた。柔らかい頬は真っ赤に染まり、黒いパッチリした瞳も閉じられ、氷枕を後頭部に敷いて寝かされている姿が痛々しい。
ササメはその隣の椅子に腰かけハセツを見下ろしていた。

「ごめんね・・・。」
自分の所為でこんなことになってしまったのに、只見守ることしか出来ない自分に歯痒さと怒りを覚え、唇を噛みしめていると

コン、コン
と、何かが窓を叩く音が聞こえた。いぶかしながら窓に近づくと突然窓を突き破り、鱗に覆われた腕が入ってきた。
腰を抜かして動けなくなっているササメを余所に、腕はハセツを鷲掴みにしたかと思うと、そのまま暗闇へ引きずり込んでしまった。慌ててササメが腕の後を追おうとしたが、時既に遅く、外からは血の匂いと一緒に、ハセツの泣き叫ぶ声と何かを噛み砕く嫌な音が聞こえてきた。

「嫌だっ、ハセツ、ハセツ!!」
自身の声で目を覚まし、安堵したが、それもすぐに消え失せることになった。部屋が暗いのは窓をを閉め切っているだけではないのはすぐにわかる。右手にはあの時の傷が痛々しく残り、主を亡くした隣のベッドは氷のように冷たくなっていた。
ぼんやりと立ちあがり、嘗て彼女が寝ていたベッドに腰かけたササメは再びあの時のことを反芻していた。

もしもあの時私が逃げなければ。
もしも私がモタモタせずにハセツを連れて逃げていれば。
もしも私があんなクエストを引き受けていなければ。
もしもあの時あんなことをハセツに提案していなければ。

しかしそんなことをしても決してハセツが戻ってくることはないというのは分かっている。やがて胸が熱くなったかと思うと、やがて涙が止まらなくなり、あとはただただ泣きじゃくることになった。
「ゴメンね、ゴメンね・・・!!」
震えたササメの声が空しく部屋の中に響いていた。


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“エオラ” 第五話  血染めの雪 後編

「いいか、決して忘れるでないぞ。」
オババの声が重々しく二人の耳に響いた。
その時ササメは大声で泣きじゃくり、ハセツは隣りでただじっとうつむいていたと思う。
「イムカはお前たちを助けようとして死んだ。これからお前たち二人はイムカの分まで生きなければならない。とても辛いことであるがしっかり肝に銘じておきなさい。」

それはいつのことだったかササメは思い出せなかった。
気が付いたらその時の忌々しい記憶が蘇り、恥も外聞も捨てて取り乱しながら走っていた。
もちろん人間の足で振り切れるような相手ではない。あっという間に大顎に追いつかれ、その戦鎚のように重々しく鋭い爪が生えた腕を振り下ろそうとしていた。

「もう駄目だ。」
彼女が覚悟した時、突然人影が割って入りササメを押しのけた。そして次にササメが見た光景は、宙を高く舞い、真っ赤な血飛沫をルビーのように真っ赤に瞬かせる人影の姿だった。
一瞬時間が止まったように見えたが、すぐにその残酷な現実に引き戻されることになった。
「・・・ハセツ!!」

突然脇から飛び出て来た二本足(人間のことと思われる。)に驚きながらも、食える肉がもう一つ増えたことを理解し、吹っ飛ばした片割れに駆け寄る二本足に向かおうとしたら、再び脇から黒い小さな影が飛び出してきた。最もそいつはノロマな二本足共とは違い、鼻っ面にしがみ付いてきたかと思うと、そのまま爪や牙を力一杯突き立ててきたからたまらない。余りの痛みに慌てて振りほどくと小さなアイルーが翡翠色の瞳を零れんばかりに見開き、全身の毛を針のように逆立て、二本足の言葉でこう啖呵を切っていた。
「逃げたいのはヤマヤマだけど、デカイ奴には喧嘩を売りたくなるタチなんでね!!」

「ハセツ、大丈・・」
慌ててハセツに駆け寄ったササメであったが、凄惨な光景を目にし言葉を失ってしまった。
幸いと言うべきか、脇腹に盾を仕込み辛うじて即死を免れることを出来たが、盾は真っ二つに裂け、脇腹には深い爪痕がパックリと口を開け赤黒い血が流れ出て雪を赤く染め、傷口からはうっすらと脂肪が見えていた。

「ササメ、怪我・・・無い?」
そんな状態にも関わらず、青白くなった唇をゆっくりと動かし虫の羽音の様に小さな声でハセツは呟いた。
ササメは一瞬耳を疑ってしまった。
こうなってしまったのは全て私の所為なのに、自分だってこのままだと死ぬかも知れないのにどうしてこの子は恨みごと一つも言わずに私の心配なんて出来るの?
自身の余りの情けなさ、そして無力さに打ちひしがれ挫けそうになりつつも、こうしている間にもバッケが時間稼ぎをしてくれているから一刻も無駄には出来ない。ハセツを抱えようとしたその時、
「危ない!!」
バッケの叫び声が響いたかと思うと、大顎の巨体が二人に迫ってきた。二人は堪らず崖へ投げ出されそうになるが、間一髪ササメがハセツの左腕を掴み、両足をなんとか崖の縁に引っ掛けて落下するのを防げたが、こんな状態では二人とも落ちてしまうのは時間の問題であろう。崖下では雪解け水が濁流となり唸りを上げていた。

「早く離して、二人とも落ちちゃう・・・!」
「そんなこと出来るわけないじゃない・・・!」

ササメが引き上げようとすると、大顎が崖から宙吊りになっているササメ達に気付いた。バッケには目もくれずに突進していく。
「不味い!!」
バッケが間髪入れずにポーチから閃光玉を取り出し、大顎の眼前へ投げつけた。

辺りが突然昼間の様に明るくなったかと思うと、右腕に激痛が走った。そしてその直後に今まで感じていた重みが消えていた。嫌な予感がしたが決して何が起こったかは想像したくなかったが、しかしそのしたくないことが現実に起きてしまっていた。
その後ハセツが目にした光景は谷底へ吸い込まれるように落ちてゆくハセツの姿。隣りではササメの腕に突き立てたと思われるナイフも一緒に舞っていた。
その顔は信じられないように穏やかで、一瞬口を動かし、何か語りかけているように見えたが、はっきりと確認できないまま彼女は濁流へと消えていった。

視覚として認知出来たが、脳が情報を処理できなかったというのはこういう事を言うのかどうかは判らない。ササメは一瞬何が起きたか理解出来なかったが、すぐに例えようのない怒りが彼女のなかで込み上げてきた。
「殺してやる・・・!」
すぐさま体勢を立て直すと、目潰しを喰らい立往生している大顎の柔らかい喉に向かって全身の力を込めて剣を突き立てた。剣を抜くと噴水の様に真っ赤な血が辺り一面に飛び散った。
獲物の思わぬ反撃に逃げようとする大顎であったが、それはすぐに永遠に叶わぬ夢であることを悟る。ササメが大顎の背中に馬乗りになると、そのまま力任せに剣を何度も何度も振り下ろした。
「ササメ、もう良い!」
バッケが制止しようと駆け寄るが、死に物狂いで暴れまわる大顎の尻尾に直撃、そのまま岩壁に頭をしこたまぶつけ、気絶してしまった。

「返せ、返せよ・・・。」
どれ程気を失っていたであろうか。何か肉を切り刻むような音にバッケが目を覚まし、ササメの元へ駆け寄ろうとしたとき、何かが足に当たった。何かと拾い上げてみるとバッケはわが目を疑った。
それはさっきまで二人に襲いかかっていた大顎の眼球だった。それだけではない。よくよく辺りを見渡すと大顎の肉片が辺り一面に飛び散り、中央では既に息絶え、原形を殆ど留めていない大顎の頭部になをも返せ、返せと取り付かれたように呟きながら剣を突き立てるササメの姿があった。

「止めるんだ、ササメ。そいつはもう死んでいるよ。」
バッケが諭すようにそっと話しかけると、ササメがゆっくりと顔を上げた。身に着けているマフモフシリーズは返り血で赤黒く染まり、右手に握られていた剣身は折れて元の半分程の長さになり、左手には素手で抉り取ったであろう、瞼の肉と一緒に眼球が握られていた。
「ねぇ、どうしてこんなことになったの?」
暫しの沈黙の後、ササメが少し震えた声でやっと口を開いた。
その瞳には戸惑いや後悔、そして恐怖が混ざり合っているようにバッケには見えた。
「それは・・・。」
バッケが喋ろうとした時、それを制止するようにササメが堰を切ったように喋り始めた。
「皆私の所為なのに、私がこんな依頼引き受けちゃったのに、私があのとき逃げちゃったからなのに、私がもっと早くあの子を連れて逃げればよかったのに、どうしてあの子が死ななきゃいけなかったの!?どうして私なんか助けたのよ!?皆私の所為なのに、どうして、どうしてなのよ!?」

ササメはそのまま倒れ込むように雪原に横たわると、拳を地面に何度も何度も叩きつけながら泣き叫んだ。
その泣き声は何時までも何時までも夜のフラヒヤ山脈へ響いた。

“エオラ”  第四話  血染めの雪 前篇

日もとっぷりと暮れ、月と星が空を覆う頃、ササメ達は雪山の中腹部にいた。
「思ったよりも集まらないわね。」
ササメがそう呟きながらポーチの中を覗きこんでいた。

今夜彼女たちが受注したクエストは雪山草の納品。雪山草とはフラヒヤ山脈周辺に自生している薬草で、精製した後滋養の高い薬湯の元となり、近隣の村々は勿論、都市部での需要もあるためにギルドでも高値で買い取ってくれるのである。

麓付近で採取していたのだが、見込んでいたより取れなかったので中腹まで来たのだがここでも期待していた程は取れなかった。ハセツが場所を変えてみてはどうかと提案しようとしたその時、突然先頭を歩いていたバッケが立ち止り、近くの岩陰に隠れるように小声で指示を出した。

「どうしたの?」
「そっと覗くんだ、そうしないと命の保証は出来ないよ。」
ハセツがバッケに言われた通りに覗くと、自身の目を疑いたくなるような光景が広がっていた。
岩壁と崖に挟まれた小さな雪原にポポが一頭横たわっていたのだが、それだけではなかった。ポポの上に一つの大きな影がのしかかっていた。いや、貪っていたと言った方が正しいだろう。
殺されてそんな時間が経過していないのであろう。喰い破られたポポの腹から見え隠れするぬらぬらと光る腸からは湯気が沸いている。物音一つしない雪原で腸を咀嚼し、骨を齧る音を不気味に響かせているその影の正体こそ、この地方で“大顎”と呼ばれ恐れられているティガレックスそのものであった。

「こんな所で遭遇するなんて・・・!」
「此処にいたら僕達も危ない、早く引き返そう。」
ゆっくりと二人が引き返そうとすると、すぐにハセツが立ち止ってしまった。
ササメが歯をガタガタと鳴らし、死人の様に顔を真っ青にして座り込んでいたのである。
「ササメ、どうしたの?まさか・・・!?」
ハセツがササメの元へ駆け寄ろうとしたその時。

「不味い!」
さっきまで雪原から吹いていた風が逆になった。
彼女達の匂いが大顎の元へ風に乗って、居場所を教えることになってしまったのである。

大きな影が突然空から舞い降りてきたと思うと、雪煙を巻き上げて着陸した。
ササメ達がそっと顔を上げると、大顎の姿がありありと見えた。
橙色の鱗に覆われ、藍色の縞模様に縁どられた胴体。
口紅を塗りたくったようにぬらぬらと真っ赤に染まった口元からは、家畜を解体する時に使うナイフのように太くて長い牙がズラリと並び、例えようも無い嫌な匂いが口からあふれ出ている。
丸太の様に太くて逞しい前脚からは三本の鋭い爪が生えており、まるで地獄の鬼が亡者を責めるのに使う槍のよう。
体の所々に羽毛が残り、全長もまだ七、八メートルばかり。見ようによっては幼さが残る尖った顔つき。おそらく独り立ちしたばかりの亜生体であると思われるがその姿は、紛れもなく“大顎”ティガレックスのそれである。


こんな状況になってしまっては仕方がない。ハセツはさっと片手剣を抜き、バッケも背中に担いだ戈を構え負けじと大顎を睨んだ。
襲う相手が複数だった場合、まず捕食者は選別をする。
どいつが一番弱って襲いやすいか、またどいつが一番元気で捕まえにくいかである。
もしもこの選別に失敗すれば、狩りを失敗するばかりか、下手をすれば獲物から逆襲と言う手痛いしっぺ返しを受ける羽目になる。そこですぐには襲わずに相手の出方をこの大顎は観察しているのである。
その為ここで少しでも自分達が強いように誇示すれば、上手くいくと自分達の事を諦めてくれるかも知れない。
だが、そんなちっぽけな望みはすぐに絶たれることになった。

「嫌だ、嫌だ・・・・!!」
突然ササメが立ちあがったかと思うと、進行方向とは間逆、つまり雪原のほうへ走り去ってしまったのである。
勿論これを大顎が見逃す訳が無かった。風のような速さでササメに追いつくと、そのままあの鋭い爪のついた腕を振り下ろした。
ササメの耳には、ハセツの叫び声と風の切る音が響いた・・・。

“エオラ”  第三話 夕刻描

ササメが目を覚ますともう日が西に傾き、夕方になっていた。
瞼を擦りながら、眠気を追い払うように体を伸ばすと、ベッドから出てマフモフシリーズへと着替え始めた。
隣りのベッドではハセツが頭から布団をすっぽりと被って気持ち良さそうに寝息を立てている。
ササメがふと悪戯心を起こし、起きないようにそっと布団をどけた。
そしてハセツの耳元に唇を近付けると・・・。

「キャッ!?」
夢の世界から引き戻されたハセツが飛び上がろうとした時、側頭部に何かがぶつかってきたような衝撃が走った。
慌てて振り向くと、涙を浮かべながら口元を両手で押さえているササメの顔が視界に入ってきた。半分目が覚めていなかったが、自分の身に何が起こったかはすぐに呑み込めた。
「何するのよ、いきなり耳に息吹き掛けてくるなんて。子供じゃないんだから起こすならもっと普通に起こしてよね!!」
ハセツが頭を擦りながら怒鳴ると、ササメも負けじと応戦に出た。
「それなら自分で起きてよね、この寝坊助!!それにそんなことで本気になって怒るハセツだって充分子供じゃない!!」
「『矢でも鉄砲でも』なんて恥ずかしい間違いする誰かさんに言われたくないわね!!」
「何ですって~!?」
ササメがハセツに掴みかかろうとした瞬間、ドアが開いてしびれを切らした祖母のエタツジが呆れながら入ってきた。そして二人仲良くやれお前たちは何時まで経っても子供だとか、やれそんなことばっかりしてるから嫁に行けないんだと、毎日聞かされ耳にタコが出来そうな説教を再び喰らう羽目になってしまった。
そんなことがあったからであろうか、二人とも夕食のポポ肉のサンドイッチとミックスビーンズのスープの味を殆ど感じられずに早々と夕食を済ませてしまった。

二人が準備を済ませて村の入り口にに行くと、一匹の子供位の背丈がある猫に似た生き物が立っていた。緑色の瞳は翡翠のように落ち着いた光を湛え、黒い毛並みは夕焼けに照らされ漆器のようにしっとりとした輝きを放っていた。

「何でアンタがこんな所にいるのよ、バッケ。」
バッケと呼ばれたその生き物はササメの声に気付くと、片方しか無いその耳をピクピクと動かしながら振り向いた。彼の名前はバッケ。この世界にはモンスターと称されている生物群の中にも、人間と共存しているものが少数ながら存在し、彼はその中の一つ、アイルーと呼ばれている種族の一員である。

「オババ様に頼まれてね、今晩のクエストは僕も参加させてもらうよ。」
バッケがそう答えると、二人は顔を見合わせササメが怪訝な顔をしてバッケに尋ねた。

「どういう事よ、それ。そんな話聞いてないわよ。私達はあんたみたいな子守りを付けられる程初心者じゃないのよ。」
それを聞いたバッケは顔を前足(この場合は手?)で洗いながら答えた。

「あのねぇ、そんな油断が命取りになるんだよ。雪走りの親玉を捕獲出来たから有頂天になってるみたいだけれども、アイツだって群れを追われた『はぐれ者』だったんだからオババ様も紹介してくれた依頼だったんだよ。もしも群れをまとめて相手にしろって依頼だったらどうなっていたと思う?下手すれば二人とも雪走り達のメインディッシュになってたかもしれないんだよ。今晩は雪山草を採取してくるらしいけど、どんなことが起こるか分からないからね。絶対に気を抜かないように、わかったね、二人とも?」

お婆ちゃんの説教から解放されたと思ったら、今度はバッケから説教を喰らう羽目になろうとは。ササメはげんなりしつつも、クエストに向かうため村を後にした。

空は夕焼けに照らされ真っ赤に染まっていた。これから起こる悲劇を暗示するかのように・・・。

“エオラ”  第二話 ポッケ村

シュレイド地方の北東に位置するフラヒヤ山脈。山頂は万年雪によって白銀に染められ、山間から吹き付ける風は冷たく、あらゆるものを凍て付かせるようだ。
だがそんな厳しい環境の中にあっても住む人々がおり、またいくつかの村が存在する。山脈付近の高地に存在するポッケ村もその一つ。村のシンボルである瑠璃色に輝く巨大なマカライト鉱石が鎮座している広場には小さな人だかりが出来ていた。

「すげぇな二人とも。雪走りの親玉を捕獲したんだって!?」
「もちろんよ。これぐらい私達にかかればなんでもないわ。」
ササメがまるで鬼の首を取ってきたかのように得意そうな調子で答えた。二人の前に置かれている台車の上には、荒縄で雁字搦めにされた先程の雪走りがもがいていた。
「もうそろそろ帰ろうよ。こんな見せびらかすなんて見っとも無いよ。」
隣りに立っていたハセツが人だかりの外に視線を向けながらササメにそっと囁いた。
ハンターと思しき人間が何事かと人だかりを覗きこむと、すぐに呆れた様な顔をして去って行った。この村にはギルドの出張所があり、雪山への狩りに赴くハンターたちの拠点になっている。雪走りことギアノスはギルドでは、比較的危険性の低いモンスターとされており、百戦錬磨の彼らからしてみれば、「ギアノスを捕獲した程度でなに大騒ぎしているんだ?」といったところであろう。

「何事も出だしが肝心じゃない。そんなのいちいち気にしちゃ駄目よ。」
元々あまり細かいことは気にしない性分の上、小さいときから男の子顔負けのわんぱく娘であった彼女は、こういったことは気にならないようである。
「でも・・・。」
彼女が言葉を続けようとしたとき、子供位の背丈をした老婆が人だかりの間を杖を突きながらやってきた。
「オババ様。」
オババ様と呼ばれたその老婆は目を細めながら雪走りを眺めると、すぐに二人に向き直った。
「良くやったね二人とも。でも油断しちゃいけないよ。何事も少し慣れてきた辺りが一番あぶないからねぇ。」
「大丈夫よ、オババ様。私達二人に掛かれば怖いものなんて何もないわ。確かこういうのって『矢でも鉄砲でも持ってこい』っていうんだっけ、ハセツ?」
頬を赤らめながら恥ずかしそうにハセツが答えた。
「それを言うなら『槍でも鉄砲でも持ってこい』だと思うよ・・・。」
村人たちの笑い声が木霊した。

「皆の前で恥をかかせたのはこの口か~!?」
「本当の事言っただけじゃない~!!」
ポッケ村は近隣の村と比較すると外部からの人間の出入りが多い。ギルドの出張所があるのも理由の一つであるのだが、ポッケ村だけの特徴として良質の温泉が湧いているのも理由の一つである。これを目当てに湯治客が時々やってくるのだ。勿論村人も積極的に利用し、多くの場合温泉というのはリラックスして入るのが相場となっているのだが、この姉妹の場合はそうはいかないようである。先程の一件で赤っ恥をかいたササメが温泉に浸かりながら、その張本人の頬を抓っていた。
「それより、これからどうしようか私達。」
ササメがハセツの頬から手を離すと、ふと思い出したように呟いた。
「これからって、ドンドルマに行こうかって話していたこと?」
ハセツが抓られていた頬を擦りながら尋ねた。
「うん、ポッケ村はギルドの出張所があるから依頼はある程度来るけど、数も種類もたかが知れてるわ。だからもっと沢山の依頼が来るドンドルマに行ってさ、お祖母ちゃんに仕送りをしようよ。」
「ここから南西にあるヒンメルン山脈だったっけ。山間にある大きな風車が並んでる街で、人の数もこことは比べ物にならないらしいね。」
街からやってきたハンターや書物から得た情報を反芻して、二人は暫く空想の世界を旅した。立ち並ぶ風車、広場を行き交う大勢の人々、市場で売られている見たことも聞いたことも無い野菜や果実、槌の打つ音が絶えず聞こえる武器工房、そして数え切れない程のハンターが集うギルドの窓口がある大衆酒場、その中に多くのハンター達から称賛の声を受けている二人のハンターが・・・。
「そろそろ上がろうよ・・・。」
ハセツの声でササメは現実に引き戻された。振り向くと顔を真っ赤にして気だるそうな顔をしたハセツがいた。
「ごめん、そろそろ上がろうか。」
「もう少しで湯あたりするところだったわ・・・。」

頬に心地よい風を感じ、少しふら付いているハセツに肩を貸しながらササメ達は自宅へ戻り、夕方からの依頼に備えて二人とも仮眠を取ることにした。
自室のベッドに腰掛けると、ササメは軽いため息をついた。
「また聞かされちゃったわね。耳にタコが出来そうだわ。」
隣りのベッドで耳元まで切り揃えられた髪を梳かしながら、ハセツが微笑みながら答えた。
「ハンターなんて危ない仕事はさっさとやめて、早く孫の顔を見せてくれってね。私達まだそんなつもりないのに。」
「本当にね。お喋りはここまでにして早く寝ましょうよ。」
「わかったわ、おやすみ。」
カーテンを閉めて布団の中に潜り込むと、やがて二人とも夢の世界へと誘われていった。

~第二話終わり~

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雑記やらその他諸々ごった煮ブログになると思います。

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出身地:西日本のどっか
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